"試合に出してもらえない"保護者様からのご相談②
全ての試合が通過点です。ジュニアサッカーの最大の目標ともいえる全日も長いサッカー人生の一つの通過点に過ぎません。ゴールは今の結果ではありません。選手たちのずっと将来にあります。だから今はただの通過点です。次につなげる時間です。
例えば僕が携わっているチームではいくつかの価値観の中で「プレイヤーズファースト」を掲げています。その小項目として「全ての選手に試合時間の半分以上の出場機会を与える」と明記しています。そこに技術や経験の差は関係なく、成長の機会を大切にしています。そのうえで目の前の試合は勝利を目指します。
今の結果よりも、次に同じ相手と戦った時にどれだけ成長できたか。そこに指導者としてのやりがいを感じています。
チームごとに方針や考え方があると思います。どんなスタイルにも、それぞれの背景と意図があります。ただ、チームの理念や方針を明確にしておくことで、選手や保護者の皆様が安心して環境を選べるようになると感じています。
上記のご相談をいただいて、そのお子様に手紙を書きました。
とても辛い想いをしたことを想像して胸が痛むこと
悲しいことに試合出場機会を与えられない選手が他にもたくさんいること
コーチは高校生からサッカーを始めて、高校生の時は殆ど試合に出してもらえなくてとても辛かったこと
これから逆転はいくらでも起こること
その選手の好きなところ
その選手のプレーのストロングポイント
サッカーは楽しいスポーツであること
サッカーを続けてほしいこと
その選手に手紙を渡したことを保護者様に伝え、本人が承諾してくれれば保護者様に読んでいただいてもいいことをお伝えしました。
翌週、お母さまから泣きながらお話をいただきました。
「息子が中学でもサッカーを続けると言っています。今のチームも最後までやり抜く決心をしたようです。いただいたお手紙は家宝にします。」
家宝というのは大げさですが、気持ちが伝わって良かったです。それから卒業までスクールでもたくさんの笑顔が見られたし、所属チームでも最後までやり抜きました。そして、中学ではレギュラーを勝ち取って、県大会に出場するチームの主力としてサッカーを楽しんでいます。
僕はこれまで数千人の選手と出会ってきましたが、試合に出られない、出場時間が極端に少ない選手は少なくありません。
他の選手と同じようにワクワクして試合会場に行ったのに試合に出られない。朝早くから準備をして、試合間の軽食を用意して、遠方まで車で移動して、お子様がプレーしている姿を見ることもできずに帰る。選手自身の気持ちや保護者様の胸中を想像すると胸が張り裂けそうです。育成年代ではあってはならないことです。
これが全国大会で優勝したチームであったとしても、試合に出場させない選手がいたのなら、それは間違いだと僕は思っています。
そして、そんな経験をした選手たちにも伝えたい。
サッカーは本来、楽しいスポーツだということ。
これからの人生でも、プレーを楽しめる環境は必ずあります。
逆転はいくらでも起こります。
育成年代のすべての選手が、フットボールを心から楽しめますように。
"試合に出してもらえない"保護者様からのご相談①
色々なご質問やご相談をいただく中で、「お子様の試合出場機会」に関するご相談はとても多いです。
今回は過去に全日本U-12サッカー選手権大会の後に、あるスクール生の保護者様からいただいた「お子様の試合出場機会」に関するご相談を公開します。
全日は一回戦で敗退しました。6年生と上手な5年生で臨み、試合に出られなかったのは6年生の息子一人でした。息子は大変ショックを受けていて、中学ではサッカー部には入らないと言っています。今のチームも辞めたいと言っています。スクールだけになると思いますが、あと数か月よろしくお願いします。
とても悲しい事実です。
まず、その選手は技術的には上手です。また、視野が広く多くの選択肢を持っています。そして、オフの時に気づける選手で、それがピッチでもいち早く危険なスペースを察知したり、予測して味方のフォローに動き出せる選手です。
しかし認知はできていても判断が悪くて、一部の選手へのパスを優先したり、シュートを打てる場面でも味方へのパスを選択してしまいがちです。一方、決断した難しいパスでも通してしまう技術があります。
守備面では予測してスペースをつぶしたり、インターセプトは得意です。しかし、球際はとても弱いです。一言で言うと気持ちに課題があります。
残念ながら、チームではミスを怒られることが多いのではないかと思います。自分がチャレンジするより上手な選手へ預ける方がいい、シュートを外して怒られるのが怖いからパスを選択する、ボールを奪いにいって抜かれて怒られるのが怖いから球際で強くいけない。
スクールではいいプレーを誉めて伸ばしています。そうすることでデュエルすることも身についてきています。以前は簡単に抜かれてしまっていたのが、体をぶつけてボールを奪いきったり、粘り強くついていくことができるようになってきていました。また、シュートを打つ機会も増えて、入らなくても周りからポジティブな声が出るので、またチャレンジできます。スクール内では"判断"の部分もかなり改善できています。
普段開催されているリーグ戦や各大会では、出場機会を与えられていない選手を見かけます。もしくは後半残り数分のみしか出場機会を与えてもらえない選手もいます。トーナメントの場合はさらに顕著に表れます。
チームを勝利に導きたい、選手たちに勝利の喜びを与えたい、という指導者様の気持ちは十分にわかります。目の前の試合で勝利を目指すのは当然です。勝利はサッカーの喜びであり、成功体験です。勝利を目指さないサッカーはありえません。
しかし、育成年代において"結果"が最も大切なことではないと考えています。
主役は選手です。指導者は選手を目的地へ導く役です。
選手は試合経験で最も成長します。試合では成功体験もするし、ミスやエラーもたくさんするものです。その経験を積みながら、修正やチャレンジを繰り返して成長していきます。
どの選手も試合を楽しみに会場に行っています。選手を試合に出さないというのは指導者が選手の成長する機会を奪うという本末転倒な行為です。保護者様も実力が足らないからなどとお子様を責めてはいけません。主役は選手です。
チームを勝利に導けないのは指導者の責任です。選手ができないのは指導者が教えることができていないからです。決して選手のせいではありません。
そして勝ったか負けたかは試し合いの単なる結果です。その試合で何にチャレンジするのかを共有して、そのチャレンジに対してどうだったかが評価基準です。
"息子がサッカーをやめたい" 保護者様からのご相談②
彼は技術的にとても上手でした。スクールで伝えることを吸収して上達するスピードも早く、特にあるテーマのトレーニングをした際に激変しました。そのテーマでのトレーニング内容が選手たちに大きな好影響を与えることを僕に気づかせてくれたのは彼だと言えるほどです。
一方で、既述のとおり彼が在籍したクラスにはチームに所属していないお子様が半数近くおり、レベル差が大きいクラスでした。彼の思い通りにいかないことが多く、彼自身からネガティブな声が出ることが大きな課題となっていきました。
月の最終週をゲームデイとして、優勝をかけてゲームの時間が長い日を設定しています。その日は他のスクール生が彼と同じチームになることを嫌がるほどの状態でした。彼はネガティブな発言をすれば僕から指摘されるので、それを我慢するものの態度には出てしまうような状態でした。
そこで彼と向き合って話した機会があります。話す機会の前に彼が所属しているチームの試合を観戦しました。同じチームにスクール生が数名在籍しています。僕が知っている選手たちは全員が自分の力を発揮できないまま、その試合は負けました。力を発揮できないのは監督からネガティブな声があり、こだまするようにピッチの選手たちがネガティブな声を連呼することが原因だと感じました。
そして彼と話しました。スクールに入会する前に自分はミスを指摘されたり怒られることをどう感じていたのか。このスクールの体験に来た時に何を魅力的に感じたのか。それを彼に問いかけました。僕が期待していた回答が率直に返ってきました。これは自分が成長するチャンスだということと、どうすればいいか考えてみようと伝えました。
急には変わりません。でも努力して味方のミスに対してポジティブな声を出した瞬間がありました。もちろん僕はそれを誉めます。しかし彼が変わったきっかけは僕の言葉ではありませんでした。
ミスに対して彼からポジティブな声をかけられた選手が、似た状況でもう一度同じようにチャレンジしてゴールにつながりました。みんなからポジティブな声をかけられるそのスクール生が照れながら「○○君が励ましてくれたから○○君のおかげ」と彼のことを言いました。それが彼にとって貴重な経験になりました。
今までは自分へのパスを要求してみんなが自分へのパスを優先する。当然相手のプレッシャーが厳しく、自由にプレーできない。イライラが募り周りにネガティブな言動をしてしまうという悪循環でした。
しかし、自分がポジティブな声をかけることでチームがうまくいくことを知った彼は積極的にポジティブな声をかけるようになりました。スクール生たちはミスをしてもチャレンジを繰り返し、彼はプレーでも声でもフォローし、ゲームデイでは彼のチームが優勝する回数が増えました。スクール生たちは彼と同じチームになりたいと言うようになりました。
実は彼が変わったポイントはそこでもありませんでした。
彼がポジティブな声を出しプレーでフォローすることで、他のスクール生たちが目に見えて上達しだしました。ミスしても次は工夫してチャレンジを繰り返すので、必ず成功体験に近づきます。そしていつか小さくても成功します。彼は周りが上手くなることに悦びを感じていたようです。
ゲームに限らず、トレーニング中も仲間たちと積極的にコミュニケーションをとり、ポジティブな声掛けをするようになりました。トレーニングの意図も理解しているので、コミュニケーションの内容を修正するようなこともありません。
加速度的に全体のレベルが上がっていきました。周りが上達すれば彼自身もプレーしやすくなります。僕はそういう仕掛けをしたつもりはありませんでしたが、彼はリーダーシップ的なところを身につけていきました。
5年生の時に改めて彼が所属しているチームの試合を観戦しました。指導者の声掛けは変わっていなかったけど、ピッチ内でポジティブに働きかけている彼の姿がありました。試合は劣勢でしたが、ピッチ内のネガティブな声は激減していました。2年前と比べて、選手たちは明らかにサッカーを楽しんでいるように見えました。
彼自身はメキメキと力をつけて6年生では県トレセンに入り、後期では県トレセンのキャプテンとなりました。そして最後には県トレセン対抗戦でチームを優勝に導きました。
3年生の終わりの頃にサッカーをやめたいと悩んでいた彼が、県トレセンのキャプテンになるまで成長しました。そして中学でもサッカーを続けています。
フットサルもサッカーも楽しいスポーツです。
"息子がサッカーをやめたい" 保護者様からのご相談①
大変ありがたいことに、ご相談をいただく機会が多いです。
単なるスクールコーチにご相談いただくということは、よっぽど悩まれているのだと思うし、勇気を出してご相談いただいたのだと思います。
出来る限り真摯に対応させていただいています。
悩んでおられる保護者様や選手はとても多いです。
そしてご相談いただく内容は似ていることもあります。
同じような悩みを抱えておられる方が少しでも気持ちが楽になればという想いから、個人名や団体名がわからない形で公開させていただきます。
ご子様が小学校4年生になる直前の2月に、お母さまからご相談いただきました。
息子がこの数か月間サッカーが楽しくないと言っていて、なんとか励ましながら続けてきましたが、4年生に進級するタイミングでチームを退団してサッカーをやめたいと言っています。親としては息子の気持ちを尊重しますが、何とか続けてほしいとは思っています。続けられる方法を模索している中でスクールのホームページを拝見して、「楽しむことを最優先する」と書かれていたことに興味を抱いて、連絡させていただきました。
息子がサッカーをやめたいと言っている理由は本人が言うにはコーチから怒られるのが嫌だということです。ミスしたら怒られるから試合には行きたくないし、練習も怖くて楽しくないと言っています。親から見ると、確かに怒られていることは多いけど、それは自分がミスしているから当然だし、そういうことを耐えて乗り越えていく力もつけてほしいと思っています。
ただ、サッカーが楽しくないと感じている状態なので、もう一度サッカーを楽しいと感じられるきっかけを作れればと考えているところでスクールのホームページを拝見しました。本人に話してみたところ、普段と違う環境でサッカー(フットサル)をすることに緊張はあるけど一回なら行ってもいいと言っています。このような状況ですが、一度スクールを体験参加させていただくことは可能でしょうか?難しければご遠慮なく断っていただいて構いませんので、ご検討をお願いします。
当スクールでは全員がサッカー(フットサル)を楽しんでいます。ご子様がやっぱりサッカーって楽しいと思ってもらえるきっかけになるよう尽力します。ぜひ体験参加していただきたいです。
そうお返事をさせていただきました。
まず、サッカーは楽しいスポーツです。子どもも大人も初心者も上級者も全ての選手がプレーを楽しめるスポーツです。そしてサッカーはミスするスポーツです。ミスをしない選手はプロでもいません。そのミスを個人やグループで成功体験に変えていくことがサッカーの面白さの一つです。
選手ができないのは教えることができていない指導者の力不足が原因です。なので、指導者が選手のミスを怒るのは本末転倒で、ミスを怒るのは自分は教える能力がないと周りに言っているようなものだと僕は考えています。
苦難を乗り越える力を身につけることは必要ですが、3年生のまだ無邪気な子どもに求めることではないと思います。ネガティブな部分を克服するよりもポジティブな部分を伸ばす方がいいと考えています。
数日後にスクールに体験参加していただきました。緊張はしているものの、きちんと挨拶ができるし、トレーニングにも積極的にチャレンジしてくれました。プレーを観てみると、しっかりと技術が身についていて、上手な選手でした。
当スクールでは体験時にはアイスブレイクの一つとして自己紹介を少し工夫しています。既存のスクール生たちのノリも良くて、殆どの体験のお子様がここで緊張がほぐれます。
そしてスクール中はポジティブな声を出すことを求めています。ネガティブな声が出てしまうこともありますが、そこは見逃さずに指摘して修正します。なのでスクールの雰囲気はとてもポジティブです。ここにもそうなるような仕掛けをしています。
スクールの後半はゲームを行います。該当クラスはチームに所属していない選手が半数ほどいるクラスで、ミスやエラーは頻繁に起こります。しかし、全てのスクール生がポジティブな声を出します。体験してくれた彼のいいプレーをみんなが誉めます。ミスをした時もポジティブな声をかけて盛り上げます。彼自身活き活きとプレーして体験が終わりました。
ゲーム中にお母さまとお話ししました。
「こんなに楽しそうにプレーしているのは本当に久しぶりに見た。本当は少し強引に連れてきたけど、連れてきて良かった。」
そう言っていただけました。
スクールの締めの挨拶が終わった後、彼はお母さんの所へ行き「楽しかったから通いたい」自らそう言ってくれました。そして即日入会となりました。サッカー(フットサル)は楽しいもの。それが伝わってとても良かったです。同時に彼はチームでもプレーを続けることを決断しました。
話はここでは終わりません。ここから彼自身が変わる試練が起こっていきます。







