"息子がサッカーをやめたい" 保護者様からのご相談②
彼は技術的にとても上手でした。スクールで伝えることを吸収して上達するスピードも早く、特にあるテーマのトレーニングをした際に激変しました。そのテーマでのトレーニング内容が選手たちに大きな好影響を与えることを僕に気づかせてくれたのは彼だと言えるほどです。
一方で、既述のとおり彼が在籍したクラスにはチームに所属していないお子様が半数近くおり、レベル差が大きいクラスでした。彼の思い通りにいかないことが多く、彼自身からネガティブな声が出ることが大きな課題となっていきました。
月の最終週をゲームデイとして、優勝をかけてゲームの時間が長い日を設定しています。その日は他のスクール生が彼と同じチームになることを嫌がるほどの状態でした。彼はネガティブな発言をすれば僕から指摘されるので、それを我慢するものの態度には出てしまうような状態でした。
そこで彼と向き合って話した機会があります。話す機会の前に彼が所属しているチームの試合を観戦しました。同じチームにスクール生が数名在籍しています。僕が知っている選手たちは全員が自分の力を発揮できないまま、その試合は負けました。力を発揮できないのは監督からネガティブな声があり、こだまするようにピッチの選手たちがネガティブな声を連呼することが原因だと感じました。
そして彼と話しました。スクールに入会する前に自分はミスを指摘されたり怒られることをどう感じていたのか。このスクールの体験に来た時に何を魅力的に感じたのか。それを彼に問いかけました。僕が期待していた回答が率直に返ってきました。これは自分が成長するチャンスだということと、どうすればいいか考えてみようと伝えました。
急には変わりません。でも努力して味方のミスに対してポジティブな声を出した瞬間がありました。もちろん僕はそれを誉めます。しかし彼が変わったきっかけは僕の言葉ではありませんでした。
ミスに対して彼からポジティブな声をかけられた選手が、似た状況でもう一度同じようにチャレンジしてゴールにつながりました。みんなからポジティブな声をかけられるそのスクール生が照れながら「○○君が励ましてくれたから○○君のおかげ」と彼のことを言いました。それが彼にとって貴重な経験になりました。
今までは自分へのパスを要求してみんなが自分へのパスを優先する。当然相手のプレッシャーが厳しく、自由にプレーできない。イライラが募り周りにネガティブな言動をしてしまうという悪循環でした。
しかし、自分がポジティブな声をかけることでチームがうまくいくことを知った彼は積極的にポジティブな声をかけるようになりました。スクール生たちはミスをしてもチャレンジを繰り返し、彼はプレーでも声でもフォローし、ゲームデイでは彼のチームが優勝する回数が増えました。スクール生たちは彼と同じチームになりたいと言うようになりました。
実は彼が変わったポイントはそこでもありませんでした。
彼がポジティブな声を出しプレーでフォローすることで、他のスクール生たちが目に見えて上達しだしました。ミスしても次は工夫してチャレンジを繰り返すので、必ず成功体験に近づきます。そしていつか小さくても成功します。彼は周りが上手くなることに悦びを感じていたようです。
ゲームに限らず、トレーニング中も仲間たちと積極的にコミュニケーションをとり、ポジティブな声掛けをするようになりました。トレーニングの意図も理解しているので、コミュニケーションの内容を修正するようなこともありません。
加速度的に全体のレベルが上がっていきました。周りが上達すれば彼自身もプレーしやすくなります。僕はそういう仕掛けをしたつもりはありませんでしたが、彼はリーダーシップ的なところを身につけていきました。
5年生の時に改めて彼が所属しているチームの試合を観戦しました。指導者の声掛けは変わっていなかったけど、ピッチ内でポジティブに働きかけている彼の姿がありました。試合は劣勢でしたが、ピッチ内のネガティブな声は激減していました。2年前と比べて、選手たちは明らかにサッカーを楽しんでいるように見えました。
彼自身はメキメキと力をつけて6年生では県トレセンに入り、後期では県トレセンのキャプテンとなりました。そして最後には県トレセン対抗戦でチームを優勝に導きました。
3年生の終わりの頃にサッカーをやめたいと悩んでいた彼が、県トレセンのキャプテンになるまで成長しました。そして中学でもサッカーを続けています。
フットサルもサッカーも楽しいスポーツです。







